土地の歴史や風土が感じられる日本各地の焼き物を知ろう

日本のお皿

以前、フランスのアンティーク食器について取り上げましたが、

日本にも多種多様な焼き物が全国各地にあります。九谷焼(くたにやき)や有田焼(ありたやき)、信楽焼(しがらきやき)など一度は聞いたことのある焼き物もありますが、あまり聞きなじみのない焼き物も中にはあるかも。おうち時間で自宅で食事をとることが増えた今、ご飯をおいしく見せてくれる食器選びにはまってしまうかもしれませんよ。

陶器と磁器の違い

焼き物の話をする前に器選びに重要な陶器と磁器の違いをみておきましょう。

陶器とは

地中の粘土層から掘り出された陶土と呼ばれる粘土が使われています。
特徴はたたいた時はゴンという低い音で吸水性が高く、素地の色は粘土の色によって変わります。鉄分を多く含む赤土や褐色の土、ベージュだったり黄色に土、灰色の土などがあり、80種類以上の素地の色があります。風合いはぽってりとした土の質感が感じられ、厚みがあります。

陶器のお手入れ方法

買ってすぐ水やぬるま湯につけることで吸水し、使用時に油やにおいがしみにくくなります。使用前にぬるま湯にくぐらせるひと手間でシミがつくのも防ぎます。つけおき洗いはNGで乾かすときもお皿同士を重ねずに通気を良くしておくカビが生えるのを防ぐことができます。もしカビがはえたら煮沸して、風通しの良いところで十分に乾燥させてください。

磁器とは

ガラス質を含む長石や珪石といった石を砕いたものが使われています。
特徴はたたいた時に金属製の高い音が鳴り、ガラス質なので水分を吸いません。素地はほとんど白色で、つるんとした薄く繊細な風合いです。

磁器のお手入れ方法

陶器よりも丈夫ですが、薄いので衝撃には注意。割れた破片はガラスのように鋭利なので片づけの際は注意が必要です。

簡単に陶器と磁器の違いを説明しました。風合いが異なるので、どんなお皿が欲しいかまずは見た目で決めるのもいいかもしれませんね。

【佐賀県】軽くて薄いのに丈夫な有田焼

有田焼

有田焼は佐賀県有田町周辺で作られる磁器で、陶石といわれる石が原料となっており、陶土と違って白くて硬く吸水性がありません。そのため日常の食器としても扱いやすく芸術性だけでなくその使いやすさが人気の理由です。

有田焼の歴史

17世紀の初めに磁器の生産が始まったと言われています。それまでは磁器を焼く技術がなく、朝鮮で作られていた器の技術を朝鮮人陶工たちから学び、技術が受け継がれました。はじめは中国に輸入されていた中国の磁器の影響を受け、器は分厚く藍色一色の染付(そめつけ)が主流でした。
しかし、有田に窯が増えはじめ1640年代に「柿右衛門様式」という、赤・黄・緑・青を使った上絵つけが始まりました。当時、単色でしか無かった焼き物に革新的な技法で、海外の貴族にむけて輸出用としても作られました。17世紀後半にはヨーロッパにも多数輸出され、ドイツの有名な窯元のマイセンに影響を及ぼしたと言われています。

伊万里焼とは

江戸時代に有田で焼かれた器は伊万里(いまり)の港から輸出されていました。そのため伊万里焼という名前で世界にも知れ渡ることとなりました。なので伊万里焼は江戸時代に作られた古い有田焼ということになります。

有田焼の特徴

基本の素地は白色で、その白を生かして絵画風の絵付けがされているのが特徴です。代表的な技法はこのようなものがあります。

白磁(はくじ)

素地の白を生かして、透明の釉薬をかけて焼いた白い磁器

染付(そめつけ)

呉須(ごす)という藍色に発色する絵の具で絵付けをしたもの

色絵(いろえ)

陶磁器用の絵の具で釉薬の上から彩色をほどこしたもの

青磁(せいじ)

鉄分を含む釉薬によって青緑に発色させたもの

瑠璃釉(るりゆう)

透明の釉薬に呉須を混ぜて瑠璃色に発色させたもの

現在の有田焼

400年の歴史を誇る有田焼は現代のライフスタイルにも寄り添える器も作られています。西隆行さんがつくる「雫」というデザインの器はしたたりそうな釉薬のみずみずしさが特徴で形もモダンでとてもおしゃれ。金照堂が手掛ける「鱗(Lin)」シリーズは陶器には見えないメタリックな印象のデザイン。新しい有田焼として、伝統を受け継ぎながら世界にも発信しています。

1954年に建てられた有田焼美術館は1874年に建てられた焼き物の倉庫を利用したもので佐賀県重要文化財の大皿が展示されています。展示内容は平成31年4月27日から明治時代を中心とした作品にリニューアルされ、有田焼の歴史を学ぶことができます。
有田焼は全国で購入することができますが、一度訪れたいのは年に一回開催される有田陶器市です。2021年は新型コロナウイルスの影響で中止となりましたが、Web陶器市としておうちで楽しむ有田陶器市が開催されたようです。来年は無事開催されてほしいものですね。

薄くて丈夫な白い磁器の始まりが有田焼と知って、お皿の歴史について考えさせられました。磁器作りは朝鮮から学び、絵付けのデザインはヨーロッパに影響を与えたりとお皿の歴史はとっても面白いなと思いました。

【石川県】鮮やかな上絵付けが魅力の九谷焼(くたにやき)

九谷焼

九谷焼きは石川県を代表する伝統工芸品で鮮やかな絵模様が特徴的。「赤、黄、緑、紫、紺青」の五彩手(通称久谷五彩)を中心とした色彩が人気です。明治時代にウィーン万国博覧会に出展し、九谷焼の名前が「ジャパン・クタニ」と世界にも広まりました。

九谷焼の歴史

1655年(明暦元年)に有田で焼き物の技術を学んだ後藤才治郎という人が、江沼郡久谷村で開窯したのが始まりと言われています。
しかし100年ほどで一度廃窯してしまったようです。この100年の間に作られたお皿は現在「古九谷」と呼ばれ、骨董コレクターからはアンティークとして新しいものよりも価値が高いものとされています。
九谷焼の廃窯後、各地で焼き物が成功しかつて九谷焼を生み出した地でも九谷焼を復活させようという動きが強まりました。そして1824年(文政七年)にまた九谷焼を焼き始めました。そして、先ほどもふれたウィーン万博で世界に知れ渡ることとなり海外への輸出も大量にされることとなりました。

見ているだけで楽しい九谷焼の上絵付って?

九谷焼を語るには欠かせない、最大の魅力「上絵付け」。上絵付けとは本焼きした陶磁器の釉薬の上に上絵釉 で文様を描き、もう一度低温焼くことで発色をさせる技法。豊かで自由な彩色ができます。九谷焼だけでなく有田焼などひろく使われている技法です。この多色づかいを生かしたデザインも増え、現代でも人気の器です。

九谷焼の人気有名作家

三代目徳田八十吉

徳田八十吉は代々100年以上受け継がれてきた伝統的な名跡で、特に3代目は評価が高く人間国宝にも認定されています。従来の九谷焼といえば人や花鳥風月を使用した絵柄が特徴ですが、三代目吉田八十吉はこの表現を使わず、単色のみで仕上げているのが大きな特徴です。

「耀彩(ようさい)」という鮮やかなグラデーションは、三代目徳田八十吉が独自に生み出した技法で絶大な評価を得ており、作品によってはかなり高額な価格で取引されるものもあります。

吉田美統(よしたみのり)

この方も人間国宝に認定されている、錦山窯というところの3代目。金箔を使った「釉裏金彩(ゆうりきんさい)」という技法が人気で様々な賞を受賞しています。淡い色をベースに、花や植物などが金箔でかたどられており、優美で迫力のある器です。

中田一於(なかたかずお)

三代目徳田八十吉から教えを受け、銀箔を切り貼りし焼きその上から釉薬しさらに焼き上げる釉裏銀彩(ゆうりぎんさい)」という技法を追及している方です。釉薬と釉薬の間に銀箔が閉じ込められ、光を当てると銀箔部分が輝き浮かびあがる、気品のある印象の器です。

これまで紹介した作家の作品は見ているだけでうっとりする美しさで、食器というよりは観賞用の芸術品といった感じですが、九谷焼の産地では現代でも若手作家の育成に力を入れており、現代の暮らしに合うような器も作られています。

九谷青窯

石川県能美市のある九谷青窯は全国から作り手を集め、様々な作家を生み出しています。
東欧の民族衣装の刺繍からインスピレーションを受け、お皿に起こした徳永遊心さんの作品や、青藍(せいらん)色の顔料のみで絵付けされた器や、無地の白磁の器を作り出す高原真由美さんなどが人気です。

九谷焼の産地である石川県では、九谷焼の歴史や当時の器を見ることができる九谷焼資料館があります。現代作家の九谷焼も見ることができるので、長い歴史のある九谷焼をじっくり楽しむことができます。
また陶芸体験できる場所もあり、ろくろ体験や九谷焼の絵付けなども楽しめるようです。自由に旅行ができるようになれば、石川県に行ってみたいですね。

【滋賀県】狸の置物で有名な信楽焼(しがらきやき)

信楽焼

日本六古窯に数えられる信楽焼は滋賀県信楽町が産地。13世紀ころには焼き物が作られていたといわれていました。先述した通りまだ磁器の技術はなく、原料は地中の粘土層から掘られた粘土が用いられた陶器。
釉薬をかけずに高温で焼くためざらっとした土らしい質感や赤褐色の色、窯の中で灰が器の面に付着した自然釉などが特徴です。

信楽焼の歴史

14世紀ごろの鎌倉・室町時代には信楽焼独自の作風が確立され始め、壺や鉢といった生活になじむ焼き物がよく作られていました。安土桃山時代には、素朴な風合いが茶器として高く評価されるようになりました。
江戸時代には大量生産が可能になり、釉薬を使わない技法が特徴でしたが、全国的な需要に応えるため釉薬を使った器も作られるようになりました。

明治から昭和にかけて工業用品としての陶器や、鉄道の一般化により旅行者に販売されたお茶を入れる焼き物も生産していました。全国シェア1位になった火鉢や、戦時中に金属の代わりとしての陶器など、信楽焼は長い歴史の中で人々の生活に寄り添ってきました。有名な狸の置物は昭和天皇が信楽に行幸された際に話題に。そのあとも、火鉢の需要がなくなった際には観葉植物の流行に目をつけ植木鉢をヒットさせ、傘立てや建築用のタイル素材など、時代に合った商品を次々と生み出してきました。
大阪府民にはなじみのある、万博記念公園の太陽の塔の背中にある黒い太陽は信楽焼のタイルが使われているそうですよ。

先に紹介した磁器の九谷焼、有田焼とは全く違う印象の有田焼ですが、土感や色むらを楽しめるシンプルなデザインに心惹かれます。筆者はざらっとした大きなお皿でカレーを食べたいなと思いました。

【栃木県】どっしりとした重みと丸みの益子焼(ましこやき)

益子焼

益子焼は栃木県芳賀郡益子町で1853年に大塚啓三郎という人が窯を築き、陶業を始めたのが始まりとされています。益子焼は粘土を用いた陶器で、良い土を見つけた啓三郎が農業の片手間で始めたそうで始めは技術がないため陶工とともに益子焼を大きくしていきました。

益子焼の歴史

益子焼は主に関東地方に出荷され、当時関東のやきものといえば笠間焼(茨城県の焼き物)だけだったため益子焼は人気を博しました。
そののち近代化を迎えた人々の生活様式が変わり、益子焼はあまり売れなくなってしまったようです。しかし、関東大震災により人々の手持ちの食器が割れてなくなったため、陶器の需要が増え景気は元通りに。民芸陶器として人間国宝に認定されたのも影響し、今でも発展し続ける窯となっています。

益子焼の特徴

栃木県でとれる土が気泡を多く含むため、厚手の器になる事が益子焼の最大の特徴です。木や石を原料とした益子で作られる釉薬はいまでも日々研究され続け、赤茶色・乳白色・漆黒・赤茶色・あめ色など自然由来で素朴なホッとする色合いです。その中でも益子焼を代表する5種類の釉薬を見ていきましょう。

柿釉(かきゆう)

芦沼石(あしぬまいし)の粉末だけを原料とし、訳と渋い茶色になります。

糠白釉(ぬかじろゆう)

籾殻(もみがら)を焼いた灰から作られ、焼くと乳白色になります。

青磁釉(せいじゆう)

ひとつ上で上げた糠白釉に銅を加えて作ります。焼くと、深みのある美しい青色になります。

並白釉(なみじろうゆう)

大谷津砂(おおやつさ)、石灰が主成分で訳と透明になります。

本黒釉(ほんぐろゆう)

鉄分を多く含み、焼くと黒色になります。

益子も春と秋に益子陶器市が開催されています。1966年から始まった陶器市は窯元の職人さんや現代の新人作家さんの話を聞きながら益子焼を選ぶことができます。こちらの益子陶器市も今年はWebにて開催されたようです。実際に手に取って選ぶことはできませんが、益子の雰囲気を楽しむことができると好評のようです。

ぽってりとした形と自然の色合いが魅力的な益子焼。厚く重みのある陶器ですが、釉薬が塗られてるため艶があり信楽焼とはまた違った印象です。筆者は益子焼の楕円型の平皿か大皿を選びたいなと思いました。

【大分県】均等に並んだ模様が特徴の小鹿田焼(おんたやき)

小鹿田焼

小鹿田焼は1705年、大分県の日田市で生まれた陶器です。集落の周辺で採れる土は赤みがあり鉄分を多く含んでおり、「飛び鉋 (かんな) 」「刷毛目」「流し掛け」などの文様が最大の特徴です。職人がひとつひとつ刷毛やカンナで描いていて素朴と温かさを感じられる器です。

小鹿田焼の歴史

兄弟窯である福岡県にある小石原村の小石原焼の陶工を招き、開窯したことから始まります。窯を作るのに適した斜面があり、豊富な陶土や薪、水力を利用するのに便利だったことからこの時が選ばれました。
大分県のや木でひっそりと作られていた小鹿田焼ですが、注目され始めたのは1931年に柳宗悦という人が「世界一の民陶」と自分の著書で評価したことがきっかけでした。イギリスの陶工も来訪し陶芸の技術や心構えを学んだそうです。

小鹿田焼の特徴である技法3種

小鹿田焼は均等に並んだ模様が魅力的。いろいろな技法でその模様がつけられています。黒い小鹿田の土に塗られた白土を削ったりすることで、模様が際立ちとてもおしゃれです。

刷毛目 (はけめ)

ろくろを回しながら白土をつけ、刷毛を小刻みにとんとん打ち付けてつくる模様で立体的なダイナミックながらです。朝鮮の李朝から伝わった技法なんだそうです。

飛び鉋 (とびかんな)

ろくろを回しながらカーブしたかんなをあてて表面を削り模様にする技法で、ろくろの回転によって模様が飛んでいるのが特徴的。

流しかけ

スポイトなどに白土や釉薬をいれ、垂れ流すようにかけて模様を作ります。イメージとしてはアイシングクッキーのような細かさです。

すべて手作業で行われる小鹿田焼はとても魅力的ですね。九谷焼や有田焼のような色鮮やかなお皿とはまた違った雰囲気をたのしめます。シンプルにブラックコーヒーと食パンでも様になると思うので、マグカップと平たいケーキ皿サイズのお皿が欲しいなと思いました。

まとめ

日本を代表する焼き物についてご紹介しましたが、何か気になる焼き物はあったでしょうか?よく耳にする焼き物でも、起源や歴史などは全く知らなかったので、お皿への興味がさらにわいてきました。実は日本のやきものにはまだご紹介しきれていないものがたくさん。続きは別の記事で書こうと思うのでよければチェックしてくださいね。
コロナでおうちにこもる時間が多いですが、毎日来る食事の時間が少しでも楽しくなるといいですね。

Written by :
2021.05.10

関連記事

BACK